本日は私の大好きなエッセイスト、内田洋子さんをご紹介します。
2011年出版の『ジーノの家』で日本エッセイスト・クラブ賞と講談社エッセイ書をW受賞した名実ともに日本を代表するエッセイストです。
もちろんエッセイがおもしろいのが一番ですが、私が内田洋子さんの何が好きかというと、実は本職はジャーナリスト。しかも30代半ばで単身イタリアに乗り込み事務所を構えた、超絶かっこいいキャリアウーマンなのです。
それぞれのエッセイで垣間見える、ブッ飛んだ行動力!(褒めてます)
私の中で「腹が据わった、イケてる大人の女」ランキングNo.1の、憧れの女性です。
女性のみならず男性までもがその溢れ出るパワーに憧れてしまうこと請け合いです。
さて、それではまずは内田洋子さんのプロフィールからご紹介します。
内田洋子 プロフィール
神戸市生まれ、東京外国語大学イタリア語学科卒。
イタリア在住30年以上のジャーナリスト。
単身イタリアに渡り、ミラノで通信社UNO Associates Inc. を設立、代表に就任。
日本に向けヨーロッパのニュース等を配信しながら、イタリアの文化や生活、人間模様をテーマとした数多くの著書を出版。
2011年に『ジーノの家 イタリア10景』で日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞をW受賞。
2020年にはイタリア人以外で初めての受賞となる「金の籠賞(GERLA D’ORO)」を受賞。
なんという輝かしい経歴なのか。いや、輝かしいというより、かっこいが正解だろうか。
エッセイの中で細かく仕事について触れていることは少ないですが、出会った人々から物語を掬い上げて作られるエッセイを読めば、その卓越した取材力がわかります。
ジャーナリストに巧みな文章力が備わった、イタリアの太陽のような笑顔をもつ女性。
内田洋子さんのおすすめ本を紹介していきます。
おすすめ 5選
ジーノの家 イタリア10景
知られざる、そしてまったく新しいイタリアエッセイ。日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞を史上初のダブル受賞した傑作。ミラノの真ん中に存在するという知られざる暗黒街。海沿いの山の上にある小さな家の家主ジーノの人生模様。貴婦人の如き古式帆船に魅いられた男達―イタリア在住30余年の著者が、名もなき人々の暮しに息づく生の輝きを鮮やかに描く。
引用;Amazon
まずは何といってもこの一冊。
この一冊を読めば、内田洋子さんの魅力がわかります。
おしゃれに全振りした書籍やSNSで見るイタリアではない、実際に生活する人にしか描けない、イタリア人の暮らしを知ることができます。
ジャーナリストならではの観察眼、今そこにある情景を切り取ったような描写。
内田洋子さんのエッセイは、まるで短編映画を見るように読めるのが特徴です。
現実的であり叙述的、シンプルで読みやすいのに飽きない。
このエッセイはすごいです。
ミラノの太陽、シチリアの月
カフェで知り合った大学教授から自宅を半分にするから買わないかと誘われる『ミラノで買った箱』。リグリア地方の田舎駅の駅員を襲った悲劇の事故と温情のドラマ『鉄道員オズワルド』。たまたま知り合った青年の結婚式に招かれて彼の郷里のシチリア島に渡ってみると想像もできなかった光景に遭遇する『シチリアの月と花嫁』。冬の海辺のホテルで出会った老いたロシア皇女が語った波乱の人生『ロシア皇女とバレエダンサー』ほか全10話。
引用;Amazon
個人的には、内田洋子さんのエッセイで1番好きな本です。
最初の章である『ミラノで買った箱』が特に好きで、内田洋子さんがミラノで居を構える、その時が書かれています。淡々とした筆致の中で開幕のファンファーレが鳴り響き、ぞくぞくします。
箱の蓋、ミラノの扉が開いたその瞬間が鮮明に描かれ、その箱から漏れ出たイタリアの強い陽光を見るようなエッセイです。
そして本書で読者が出会う、鉄道員オズワルド。彼とは(彼以外にも何人もいるのですが)今後も内田洋子作品の中で再会します。私にとって、多くの読者にとって、まるで顔見知りのような存在になります。
ぜひ、在りし日の著者と、愛すべきオズワルドとその家族に出会ってください。
モンテレッジォ小さな村の旅する本屋の物語
きっかけはヴェネツィアの古書店だった。客たちのどんな難しい注文にも応じ、頼まれた本は必ず見つけてくる。(ただ者ではないな)と修業先を聞いてみると、「代々、本の行商人でした」
トスカーナの山奥のその村、モンテレッジォでは、何世紀にもわたり村の人が本の行商で生計を立て、籠いっぱいの本を担いでイタリアじゅうを旅した。各地に書店が生まれ、「読む」ということが広まった。
引用;Amazon
わずかに生存している子孫たちを追いかけ、消えゆく話を聞き歩き、歴史の積み重なりを感じながら、突き動かされるように書かれた奇跡のノンフィクション。
累計3万部以上、話題を攫いまくった歴史ノンフィクション。
本好き、歴史好き、旅好き、ノンフィクション好きは絶対に後悔しないから読んでいただきたい。ノンフィクションなのか分からなくなってしまうほど物語性があります。モンテレッジォなんてこの本を読むまで聞いたことなかったですが、絵本から飛び出てきたような素敵な村。こんな村から始まり、長い歴史を経て私の手の中にある一冊の本。こんなの好きに決まってる。
「本は世の中の酸素だ」の言葉のもと、イタリア中に知識という酸素を送った、文化の密売人たち。中盤から後半にかけての疾走感がすごい。これが物語ではなく徹底的に調べ尽くされた歴史的事実であることを忘れてしまうほど、のめり込めます。内田洋子さんのジャーナリズムと、独特の美しい文体のマリアージュが炸裂しています。
はるか昔イタリアに実在した行商人の快進撃、商売人の中の商売人。これは冒険の書です。おすすめ!
どうしようもないのに、好き イタリア15の恋愛物語
明るく、情熱的に、人生を謳歌する人たちの国。
引用;集英社
そんなステレオタイプのイメージでは決し捉えきれない、現実のイタリア人の恋愛。
秘められた恋、夢のような時、報われない愛……。イタリアには、恋愛のあらゆる形があった。
けれども、その本質は誰もが覚えのある普遍的な感情である。
この国に長らく暮らしてきたからこそ見ることのできたさまざまな恋愛模様と、
そこから浮かび上がる、人間の純粋さと狡さ、滑稽と哀しみ。
基本的に内田洋子作品に出てくるイタリア人はお洒落なのですが、本書は一冊丸ごと「お洒落とはこういうものなのよ、お嬢さんたち」と流し目で微笑む美魔女のような雰囲気を醸し出しています。
恋とは言いつつキュンキュンものは期待せず読んでいただきたい。一貫してアンニュイな空気漂う、フィルムノワールのような仄暗さ(イタリアだけど)がある、15篇の大人の恋。
男と女、少女漫画のような結末を迎えないから即ち悲恋というのは野暮ってもんで。ここに描かれているような、どうしようもない、二進も三進も行かないものもありますよね、大人だもの。遠く離れたイタリアで繰り広げられる、いい意味でビターな恋愛を堪能できます。
私が特に好きなのは、表題にもなっている「どうしようもないのに、好き」の章。元女優のニニと、どうしようもないの最高峰とも言えるよう人気俳優の話。戦後の俳優の格好良さは異次元だったし、さらに生粋の伊達男ときたらもう女が抗うことなど不可能だろう。寂しく笑う美しいニニの姿が、読了後しばらく経っても心に残り続けました。
よくある恋愛小説では得られない満足感があります。大人におすすめの一冊。
対岸のヴェネツィア
ヴェネツィアに移り住んだ著者が出会った、街の素顔と人々の喜怒哀楽。裕福なマダムに仕える元漁師の半生、古い教会でのコンサート体験、古文書の電子化に取り組む人々…。滋味あふれるエッセイ12章。
引用;Amazon
最後はこの一冊。
内田洋子さんの暮らしに関しては、ミラノで素敵な住人たちと集合住宅で暮らしたり、リグリアで危険な坂道の上にある借家暮らしをしたり、古い木造帆船の船上で6年間暮らしたり(これが一番驚く)などなど、話題に事欠かないバリエーションで読者を楽しませてくれます。
そして極め付けは水の都、ヴェネツィアでの暮らし。
正確にいうと、ヴェネツィアの対岸にあるジュデッカ島での暮らしです。
窓の向こうに、ヴェネツィアが見れる家。
観光名所ではなく、ヴェネツィアという街の本当の姿が描かれます。
これだけ内田洋子さんの本を読み漁ってはいますが、私はイタリアに行ったことがありません。ヴェネツィアなんて、生きているうちにその地を踏むことがあるのかすらわかりません。
でも不思議なことに、内田洋子さんのエッセイを読むと、そこに私が立っているのです。錯覚を起こすほどリアルに情景を切り取られ、文字列から映像が流れ込むように、ヴェネツィアがグッと近づいてくる。
そこに暮らす市井の人々に、内田洋子さんが溶け込み、その暮らしをお裾分けしてくれています。
おわりに
以上が私のおすすめ5選でした。
ここで紹介した以外の本も、どれも素晴らしいエッセイばかりです。
一冊読めばもう一冊に手が伸びます。もしこの記事を読んで気になった方がいれば、まずは最初の一冊に手を伸ばしてみてください。
本をひらけば、イタリアへの扉が開きます。
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